上野周辺 その他特別展

『アラビアの道-サウジアラビア王国の至宝』を東京国立博物館にて
レポート、感想、解説をお送りします。

 東京国立博物館・表慶館にて開催中『アラビアの道-サウジアラビア王国の至宝』を観に行きましたので、そのレポートと解説をお送りします。

サウジアラビア王国の至宝の数々が日本初公開

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 本展では、古代より交易路が張り巡らされ、人々と諸文明が行き交ったアラビア半島の躍動的な歴史と文化を示すサウジアラビア王国の至宝400点以上が日本で初めて公開されます。100万年以上前にさかのぼるアジア最初期の石器、5000年前に砂漠に立てられた人形石柱といった貴重な文化財の数々をを通して、アラビア半島の歴史ひいては人類の歴史の一端を学ぶことができます。

平常展もしくは特別展のチケットで観覧可能

 本展は、総合文化展(平常展)ならびに特別展のチケットで観覧することができます。僕もこの日は仁和寺展を観る前にこちらを観覧しました。入口でチケットの提示を求められることもなかったので、自由に入場して大丈夫ということのようです。

「表慶館」館内の様子にも注目

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 会場となっているのは本館に向かって左手に見える表慶館という建物です。重要文化財に指定され、明治末期の洋風建築を代表する表慶館は、日本で初めての本格的な美術館だとされています。曲線美が見事な階段や非常に美しい装飾が施されたドーム型の天井など、館内の様子にもぜひ注目してみてください。展覧会開催中しか館内に入ることができませんので貴重な機会です。

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仁和寺展のおまけと侮ることなかれ

 正直、仁和寺展に行った際に時間つぶし程度の軽い気持ちで入ったのですが、出品点数約400点と中々のボリュームで想像以上に充実した内容に驚きました。これはもはや仁和寺展の“ついで”ではなく、本展単体でじっくり鑑賞することを検討された方がいいかもしれません。全て鑑賞するのに2時間弱かかりました。また、全ての展示品が撮影可能です。

f:id:async-harmony:20180218184318j:image 本展は5つの章を通してアラビアの“道”を辿ることができます。ここからはそれぞれの章を自身で撮影した写真と共に解説します。

第1章 人類、アジアへの道

 旧石器時代にアフリカからアジアへと足を踏み出した人類を迎えたのは、広い草原にたくさんの湖や様々な動物たちが群れる「緑のアラビア」でした。その後紀元前9000年頃から徐々に始まった新石器時代では、農耕定住社会の成立後アラビア半島を行き来して遊牧や狩猟を営む人々が現れ、まさに「アラビアの道」が生まれようとしていたのでした。

 第1章では、そんな旧石器時代から新石器時代にかけてのアラビア先史時代を紹介しています。アジア最古級である100万年以上前の石器などの旧石器群は、アフリカで進化した人類がユーラシア大陸へと拡散していった証拠として注目されている史料であり、近年発見された遺跡から掘り出された動物像などの資料は、新石器文化の存在を示唆するものです。

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第2章 文明に出会う道

 紀元前2500年頃に、現在はイラクの一部にあたるティグリス川とユーフラテス川流域に生まれた世界最古の文明であるメソポタミア文明と、インド・パキスタン・アフガニスタンのインダス川周辺に栄えたインダス文明とをつなぐ“道”となったのがアラビア湾(ペルシャ湾)でした。「ディルムン」と呼ばれる湾岸地域には各地の特産品が集められ、メソポタミアへと運ばれました。

 第2章では、メソポタミア文明とインダス文明をつなぐ海上交易で繁栄したアラビア湾(ペルシャ湾)沿岸地域で出土された石像や石製容器が展示されています。

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第3章 香料の道

 現在のイエメン・オマーンの一部にあたるアラビア半島南西部や、東アフリカの一部地域で採れる乳香・没薬などの樹脂香料は、宗教儀式の際に使用する薫香や薬品として大いに重宝され、その結果富を得た南アラビアは古典史料において「幸福のアラビア」と呼ばれました。

 紀元前1000年頃には運搬にラクダが用いられるようになり、香料などを載せた隊商がアラビア半島を行き交い、内陸の交易都市は目覚ましい発展を遂げました。

 第3章では、紀元前1000年以降に香料交易で繁栄した交易都市であるいわゆるオアシス都市の出土品が数多く展示されています。バビロニア王の石碑やリフヤーン人の巨像などが印象的です。

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 ヘレニズム・ローマ時代(前3~後3世紀頃)には、アラビア湾沿岸地域は香料交易で再び繁栄を取り戻しました。その様子は、カルヤト・アルファーウで発掘された様々な出土品から感じることができます。

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 古代のアラビア半島には各地に様々な文字文化が存在しました。レヴァントから伝わった初期アルファベットをもとに南セム系の文字が生まれた一方で、北西セム系文字であるアラム文字が北アラビアに定着してナバテア文字へと発展しました。

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第4章 巡礼の道

 7世紀前半以降、預言者ムハンマドが説いたイスラーム教はアラビア半島全域に広まります。その後東はアジアに、西は北アフリカそしてイベリア半島までもがその勢力下となります。マッカ(メッカ)、マディーナ(メディナ)という2大聖地への巡礼がイスラーム教徒の義務とされているため、巡礼月には様々な地域から膨大な数の巡礼者が訪れ、その巡礼路は商業路としても機能しました。

 第4章は、アラビア半島への巡礼をテーマに、巡礼路とともに発達したラバザの出土品や美しい書体のアラビア文字が刻まれた墓石、さらには17世紀に聖地マッカのカァバ神殿で実際に使われていた扉や16世紀のクルアーン(コーラン)写本といった貴重な作品が展示され、イスラーム美術の魅力を余すところなく紹介しています。

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 イスラーム時代以降、アラビア文字はイスラーム共同体の公式な文字となり広まりました。神の言葉であるクルアーン(コーラン)を美しく書き記すために書の芸術として発達し、次第に草花装飾を帯びたものなど様々な書体が生まれました。

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第5章 王国への道

 アジア、アフリカ、ヨーロッパの三大陸にまたがって拡大したイスラーム世界には、各地に王朝が分立するようになります。そんななか、18世紀に誕生したサウード家はアラビア半島の征服を開始し、19世紀にはその大半、現在のサウジアラビア王国にほぼ相当する地域を統一します。しかし、その後エジプト軍の攻撃および内紛によって2度に渡り王国は崩壊し、サウード家はリヤドを追放されます。

 その後、サウード家の後継者であるアブドゥルアジーズが精鋭を率いて1902年にリヤドを奪還し、3度目となるアラビア征服を開始します。彼の建てた王国が、現在のサウジアラビア王国へとつながっているのです。

 第5章では、この時期に使われていた日用品や武器など、イスラーム美術の装飾が施された工芸品が展示されています。

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 サウジアラビア王国の初代国王で、建国の父として現在へとつながる土台を築いたアブドゥルアジーズ王(1876~1953)の遺品も展示されています。

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最後に

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 最初の部屋に入った時には「まさかこれだけ?」と思ってしまいましたが、実際には1階、2階と2フロアに渡って400点以上が展示されているとても充実した内容の展覧会でした。かなり渋いテーマではありますが、数100年さらには5000年、そして100万年というそのスケールの大きさにはワクワクせずにはいられません。仁和寺展と併せての観覧はもちろん、本展単体での観覧も自信をもっておすすめできる素敵な展覧会です。残り開催期間も短くなってきましたので、お見逃しなく。

以上、『アラビアの道-サウジアラビア王国の至宝』のレポートおよび解説でした。

開催概要

会 期:2018年1月23日(火) ~5月13日(日)
会 場:東京国立博物館 表慶館
開館時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
※ただし、金曜・土曜は21:00まで開館 (入館は20:30まで)
休館日:月曜日

「アラビアの道-サウジアラビア王国の至宝」は、2018年1月23日(火)~3月18日(日)までの会期が予定されていましたが、会期延長が決定しました。
当初の会期 2018年1月23日(火)~3月18日(日)
変更後の会期 2018年1月23日(火)~5月13日(日)

観覧料金

一般620円(520円) 大学生410円(310円) ※総合文化展観覧料でご覧いただけます。
高校生以下および満18歳未満、満70歳以上の方は無料(入館の際に年齢のわかるものをご提示ください)
※ ( )内は20名以上の団体料金 
※特別展は別途観覧券が必要です。
※障がい者とその介護者一名は無料です。入館の際に障がい者手帳などをご提示ください。
※ 子ども(高校生以下および満18歳未満)と一緒に来館した入館者(子ども1名につき同伴者2名まで)は100円割引。 

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