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レポート編 『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』を国立新美術館にて 初日に行った感想、見どころ、混雑状況もお伝えします。

至上の印象派展

 東京、六本木の国立新美術館にて2/14から開催中の『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』レポート編です。印象派、ポスト印象派を代表する画家の名画が勢揃いしたこの展覧会のレポートをお送りします。

展覧会の概要解説は解説編をご覧下さい。
(解説編『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』国立新美術館 見どころを解説します。 - Art-Exhibition.Tokyo )

初日は比較的穏やかな混雑状況

 今回向かったのは開催初日の15時頃。どの展覧会も初日というのは混雑状況が読みにくいので少し心配しながら行きましたが、比較的空いていたと言っていいと思います。所々人だかりができている作品もありますが、鑑賞する上でストレスを感じる程ではありません。展示自体がスペースをゆったり使っているため、非常に快適でした。

 これは多くの展覧会に言えることですが、傾向として皆さん入場直後のエリアで熱心に鑑賞されるため、人だかりができやすく、逆に後半のエリアの方が空いています。もし入場してみて「混んでるな」と感じる場合は、一度そこは後回しにして後半のエリアから鑑賞するというのもいいと思います。ちなみに僕は、展覧会鑑賞の際にはいつも必ず2周します。1周目はあまり時間をかけずに、人だかりができている所はどんどん飛ばしながら最後まで“ざっくり”と観てから最初に戻って来て、2周目に気になった作品と先ほど観られなかった作品を重点的に時間をかけて鑑賞するのです。こうすると結果的に無駄を省いた、質の高い鑑賞が出来るのでおすすめですよ。

 穏やかなスタートとなった本展ですが、会期後半になるにつれて段々と混雑していくことが予想されます。これまで国立新美術館で開催された展覧会でも、会期末になると非常に混雑して行列ができることもしばしばありました。これから行こうと思っている方、気になっている方は可能な限り早めに行かれた方がいいと思います。夜8時まで開館している金曜日(土曜日)の夕方以降も比較的空いているかもしれません。

2週間限定でポストカードがもらえる

 2月14日(水)~28日(水)限定で、来場者全員にルノワールの《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》特製ポストカード(非売品)が配布されますす。気になる方は期間中に行きましょう。展覧会入場の際にもらえます。
※3月7日(水)~14日(水)はセザンヌ「赤いチョッキの少年」

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図録はもちろんのこと、かわいいグッズがたくさん

 図録は全出展作品64点のカラー写真はもちろん、全てに詳しい解説も付いていますし、コラムも盛り沢山の内容です。写真も大きくて見やすいですし、ソフトカバーなのも読みやすくて好印象。価格は2400円です。

 ショップにはそのほかにもかわいいグッズが色々販売されていました。なかでもデザインのバリエーションが豊富なファイル類や付箋、iPhoneケースなどが印象的でした。特別前売り券として販売された「至上の印象派展記念 可愛いイレーヌ リカちゃん」も7500円で販売されていましたよ。

ちなみにチケットを持っていなくてもショップだけ利用することは可能です。

イメージ写真

傑作の数々はもちろん、楽しみ方がわかりやすく満足度は非常に高い

 世界屈指の絵画収集家エミール・ゲオルク・ビュールレが集めた「ビュールレ・コレクション」は全部で約600点にも及びますが、その中から今回出品されているのは厳選された64点です。一般的な展覧会と比べてそれほど出品点数が多いとは言えませんが、全く不足感は感じませんでした。やはり今回来日したのは、ドガ、マネ、ルノワール、ファン・ゴッホ、ゴーギャン、モネ、セザンヌといった超有名画家の作品ばかりということもありますし、コレクション自体が印象派、ポスト印象派を中心としたまとまりがあるものなのでとても観やすかったというのが大きかったと思います。さすが、世界有数のコレクションです。

 さらに言えば、ビュールレは大学で美術史を学んでいたこともあり、収集家として作品同士の歴史的な繋がりや影響を強く意識していました。ただ好きな作品を手当たり次第に集めたわけではないのです。なかでも彼は印象派の作品に強く惹かれたわけですが、そこに留まらず、印象派に影響を与えたロマン主義や写実主義、印象派の影響を受けつつもそこからの脱却を目指したポスト印象派、それらが橋渡しとなって生まれたフォーヴィスムやキュビスム、表現主義といった、ある一つの美術史を丸ごとコレクションしたのです。それが本展ではきれいにまとまって展示されているため、鑑賞しやすいですし、何より楽しみ方がとてもわかりやすいです。そのあたりをもう少し具体的に説明していきます。

10のテーマで印象派を中心とする美術史の変遷を辿る

 本展は、肖像画/ヨーロッパの都市/19世紀のフランス絵画/印象派の風景ーマネ、モネ、ピサロ、シスレー/印象派の人物ードガとルノワール/ポール・セザンヌ/フィンセント・ファン・ゴッホ/20世紀初頭のフランス絵画/モダン・アート/新たなる絵画の地平/という10の章で構成されています。

大きく変化した画法

 まず注目していただきたいのが「第2章:ヨーロッパの都市」に展示されている、景観画の巨匠・カナレットの《サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂、ヴェネツィア》(No.10)と、印象派による光の捉え方をより突き詰めた“新印象派”の代表的画家ポール・シニャックによる《ジュデッカ運河、ヴェネツィア、朝(サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂)》(No.11)の対比です。カナレットの作品は1738~42年制作、一方シニャックの作品はその約170年後である1905年制作です。描かれているのはどちらもヴェネツィアのサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂ですが、その表現の仕方は全く違います。170年でいかに画法が変わったのかが観て取れますね。

 

アントーニオ・カナール(カナレット) 《サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂、ヴェネツィア》 1738-42年 油彩、カンヴァス 121×152cm チューリヒ、E.G.ビュールレ・コレクション財団蔵 

 

f:id:async-harmony:20180215222628j:plainポール・シニャック《ジュデッカ運河、ヴェネツィア、朝(サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂)》1905年 油彩、カンヴァス 65×81㎝ チューリヒ、E.G.ビュールレ・コレクション財団蔵 ©Foundation E.G. Bührle Collection, Zurich (Switzerland) Photo: SIK-ISEA, Zurich (J.-P. Kuhn)

これぞ印象派 モネ、マネ

 「第4章:印象派の風景」~「第7章:フィンセント・ファン・ゴッホ」までは、まさにその名を知らぬ者はいないといった、印象派・ポスト印象派を代表する画家の作品がずらりと並んでいます。そのなかでも印象派の醍醐味ともいえる風景画を得意としたモネとマネの作品は格別です。

 

f:id:async-harmony:20180214005455j:plainクロード・モネ 《ジヴェルニーのモネの庭》 1895年 油彩、カンヴァス 81.5×92cm チューリヒ、E.G.ビュールレ・コレクション財団蔵

エドゥアール・マネ 《ベルヴュの庭の隅》 1880年 油彩、カンヴァス 91×70cm チューリヒ、E.G.ビュールレ・コレクション財団蔵

最高傑作の美少女 イレーヌ

 そして今回の主役と言ってもよいであろう、絵画史上最も有名な少女像とも言われるルノワール《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》にはひと際人だかりができていました。とても美しくて、一緒に展示されているその他のルノワール作品と見比べてみても、この絵が最高傑作と言われているのが頷けます。

 

ピエール=オーギュスト・ルノワール 《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》 1880年 油彩、カンヴァス 65×54cm チューリヒ、E.G.ビュールレ・コレクション財団蔵

強烈な個性 ファン・ゴッホ

 印象派からの影響をある意味で否定的に捉え、独自の芸術性を追及したポスト印象派の画家たちのなかでも、最も個性的なのはファン・ゴッホなのではないでしょうか。彼の絵は生で観ると本当に強烈で、何といっても数m離れた場所からでもわかるその立体的な質感はもはや衝撃的です。本展に出品されているのは6点のみですが、それだけでもファン・ゴッホの様式の変遷が観て取れます。しかもこれら全てが僅か6年の間に描かれたものだという事実には驚かされます。

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フィンセント・ファン・ゴッホ 《花咲くマロニエの枝》 1890年 油彩、カンヴァス 73×92cm チューリヒ、E.G.ビュールレ・コレクション財団蔵

20世紀の絵画に与えた影響

 「第8章:20世紀初頭のフランス絵画」/「第9章:モダン・アート」では、印象派・ポスト印象派がその後の美術に与えた影響を紹介しています。

 ファン・ゴッホと並んでポスト印象派の代表的画家であるゴーギャンは、20世紀初頭のフランスの画家に強い影響を及ぼしました。また、結果的に印象派やポスト印象派の影響により、フォーヴィスムやキュビスムといった新たな概念が誕生し、モダン・アートという形で発展します。

 ビュールレ自身の関心は常に印象派にありましたが、同時代の抽象的な絵画を橋渡しするような作品をコレクションに加え、近代絵画の歴史を丸ごと収集したのです。こういった姿勢が彼のコレクションの価値を高めたわけですね。

f:id:async-harmony:20180216001905p:plainジョルジュ・ブラック 《ヴァイオリニスト》 1912年 油彩、カンヴァス チューリヒ、E.G.ビュールレ・コレクション財団蔵

f:id:async-harmony:20180216003106p:plain パブロ・ピカソ《イタリアの女》1917年 油彩、カンヴァス チューリヒ、E.G.ビュールレ・コレクション財団蔵

これまでスイス国外には一度も出たことがないモネの大作が来日

 展覧会の最後には、ビュールレがコレクションのなかでも特に大切にしていたモネの高さ2メートル×幅4メートルの大作《睡蓮の池、緑の反映》が展示されています。これは元々、部屋を埋め尽くす壁画の1枚として制作されたものでしたが、時代を先取りしたその狙いが理解されず、買い手が付かないままモネ没後のアトリエに残されていました。しかし、後にビュールレはそれらの価値に気づき購入します。結果的にその数年後にこの作品は世間に認められるようになり、そのことがビュールレ自身の評価にも繋がりました。ビュールレの作品の価値を見極める眼が優れていたことがうかがえます。

 ちなみにこの作品に限り写真撮影が可能となっています。混雑していると撮影するのも困難になりますから、そういう意味でもやはり早めに行かれた方がいいでしょう。

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f:id:async-harmony:20180214163004j:plainクロード・モネ《睡蓮の池、緑の反映》1920/1926年頃 油彩、カンヴァス チューリヒ、E.G.ビュールレ・コレクション財団蔵

最後に

 印象派・ポスト印象派の作品は、その色彩や大胆な筆遣いに大きな特徴があります。それらは、写真では全く伝わり切らないもので、直接観ることがこんなに楽しい絵はほかにないのではないかと個人的には思います。本展はそんな印象派・ポスト印象派のなかでも、まさに傑作と呼べる作品ばかりが勢揃いしています。印象派への入口にも最適ですし、出展作品の約半数が日本初公開のため、絵画に詳しい方でも満足出来る内容ではないでしょうか。

 そして、この「ビュールレ・コレクション」は、その全ての作品が2020年完成予定のチューリヒ美術館の新館に移管され、常設展示されることが決まっているので、これらコレクションがまとまって観られるのはこれが最後の機会となります。ぜひお見逃しなく。

以上、『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』のレポートでした。

開催概要

会期:2018年2月14日(水) ~ 5月7日(月)
開館時間:午前10時~午後6時
(毎週金・土曜日、4月28日(土)~5月6日(日)は午後8時まで) ※入場は閉館の30分前まで 
休館日:毎週火曜日(ただし5月1日(火)は除く) 
会場:国立新美術館 企画展示室1E〔東京・六本木〕

観覧料金

一般1,600円  大学生1,200円  高校生800円
・中学生以下無料 ・障がい者手帳をご持参の方(付添の方1名を含む)は無料 

巡回情報

東京展終了後は下記のとおり巡回します。

【福岡展】
2018年5月19日(土)~ 7月16日(月・祝)九州国立博物館
【名古屋展】
2018年7月28日(土) ~ 9月24日(月・祝)名古屋市美術館

概要解説はこちら
(解説編『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』国立新美術館 見どころを解説します。 - Art-Exhibition.Tokyo)

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